いけばなの根源、池坊の紹介

いけばなには現在多くの流派がありますが、「井上太市池坊いけばな教室」で学ぶのは池坊です。実は池坊って今の日本のいけばなの根源なんです。知っていましたか?

池坊とは

現存する最古の流派です。500年以上の歴史があり、長い時間をかけて培った美観、技、草木へ寄せる心を今に伝え、さらに発展させています。

京都に紫雲山頂法寺というお寺があります。本堂の屋根が六角形をしており、六角堂の名前で親しまれています。その北側にある池のほとりに僧侶の住坊があったため、六角堂の執行(諸務を取り扱う僧の長)は「池坊(いけのぼう)」と呼ばれるようになりました。池坊は代々本堂に花を供えてきましたが、次第にその花が評判となり、花の名手として知られるようになります。

当時の京都の様子を伝えてくれる資料である『碧山日録』(東福寺の僧大極の日記)の寛正3年(1462年)2月25日の条には次のような記述があります。

宿雨不晴春公招専慶挿花草於金瓶者数十枝洛中好事者来競観之

『碧山日録』寛正3年2月25日(1462年3月25日)

これが池坊(専慶は当時の執行)の名が歴史上に現れた最初です。500年以上もの昔、池坊の花が評判になっていた様子が伺えます。以来、花を家の芸として現在まで道を繋げています。

池坊いけばなの歴史

いけばなの歴史について池坊を中心に簡単に紹介します。

いけばな以前

昔から花を美しいと思う心はあり、人々の営みの中に様々な形で花が取り入れられていたことでしょう。仏教では仏様に花を供える習慣があり、日本でもこれは行われたようです。例えば奈良時代の大仏開眼供養の際には種々の造花が供えられたという記録もあります。

そして、そのような儀式の花だけでなく、花を飾って楽しむということも昔から行われていたようです。有名な枕草子にも桜の枝を瓶に挿したという記述が見えます。室町時代になると公家の間で花合という遊びも催されるようになります。

いけばなの成立と発展

鎌倉時代頃から座敷飾りの一環として花は取り入れられていたようです。室町時代には花を立てる名手が現れ、様々に工夫をこらして花を立てるようになります。室内装飾の一部だった花が、次第にそれ自体で独立して鑑賞されるようになりました。様々な名手のなかには頂法寺の執行池坊の名も見えます。いつからかは分かりませんが、室町時代後期には花のことを代々の家業とするようになっていました。

池坊専應は「専應口伝」により、新しいいけばな観を示します。このあたりから江戸時代初期にかけて立花の理論、形が整えられていきます。立花は当初天皇をはじめとして公家の間に広まりましたが、次第に武家や裕福な町人にも広まります。

一方で複雑な立花に対して、気軽に楽しめる抛入花と呼ばれる花もいけられるようになり、江戸時代後期には生花という形式に発展します。それまでの立花は池坊の独壇場でしたが、生花の家元を名乗る諸流が乱立しました。池坊でも世間の流れをうけ、立花だけでなく生花も盛んに生けられるようになります。

現代のいけばな

明治期には立花、生花ともに教授用の理論体系が確立されます。これによりますますいけばなの定型化に拍車がかかります。これに対し、従来の立花、生花とは違う花を主張する流派も現れますが、それも次第に型にはまって行くようになります。

池坊では現在では立花、生花、自由花の3様式に整理され、いままでに培われた様々な要素を現代にいかせるよう各人が日々研鑽に励んでいます。

池坊の花形

現在、池坊では大きく分けて立花、生花、自由花という3つの様式の花がいけられれています。長い歴史に裏打ちされた多くの蓄積があり、古典的な表現から、現代的な最先端の作品まで多様な表現が可能です。

立花(りっか)

多くの種類の花材を一瓶に取り合わせ、各々が主張しつつも譲り合いながら一つの調和を作り出すように複雑な構成を取ります。花の種類も多く、出来上がりも大きなものになるため豪華絢爛な表現が可能となります。読んで字のごとく立てる花を起源としています。室町時代にその原型ができ、江戸初期にかけて洗練されました。

立花
立花

生花(しょうか)

立花に比べ簡素ですっとした表現が特徴です。用いる花材の種類も少なく、最大でも3種類までしか使いません。いける植物の姿を見つめ、極限まで削りそのらしさや生命感を表現します。立てる花と並行して行われていたいける花が、江戸中期頃には形式を持つようになり、「生花」という様式へ発展しました。

生花

自由花(じゆうか)

立花や生花のように歴史があり型があるものに対して、その名の通り基本的に自由に創る花です。表現したいことや、飾る環境や状況に応じて、工夫次第で様々な作品が生み出されています。3つの中でも最も主観性の強い様式で、自分の考えや感覚によって創造していく楽しさがあります。